インディカーが2024シーズン導入のハイブリッド・インディカーをテスト






現地、10月12日と13日にインディアナポリス・モータースピードウェイにて2024年シーズンよりインディカー・シリーズに導入されるハイブリッドパワーユニットを搭載したインディカーを6人のドライバーがテストしました。

今回のテストはスピードウェイにおけるマニュファクチュアラーテストで、エンジンサプライヤーであるホンダとシボレーを使用するチームからそれぞれ3人のドライバーが参加。今後はロードコースやショートオーバルでもテストが実施される予定です。

インディカーでのハイブリッドシステムは2.2リッターV6ツインターボの内燃エンジン(ICE)と、発電機を兼ねるモーターと蓄電するためのキャパシターからなるERSユニットで構成。ERSユニットはトランスミッションやリアサスペンションマウント共に接続されるベルハウジング内に搭載され、エンジン後方に組付けられます。ERSユニットの重量は約54㎏です。



黄色=エンジン(ICE)水色=ベルハウジング オレンジ=ギアボックス




現行のダラーラIR-12のベルハウジング。2013年当時はホンダはベルハウジングにシングルターボを搭載。その後ツインターボ化でタービンはサイドポッド内に移動。このスペースにERSユニットが搭載されることに。




ハイブリッドシステムは、減速時の運動エネルギーで電気モーターを回して電気を発電。発電された電気はキャパシターに蓄電されて、その電気エネルギーは加速時などに再利用されます。

バッテリーに代わってキャパシターを使うメリットとして充電時間の短縮があります。インディカーがキャパシターにこだわる理由として、ブレーキングがほとんど無いオーバルトラックでERSによる100馬力のパワーアップを得るためには、短時間の減速でリアホイールから十分な電力を蓄える必要があるからです。

電気モーターは内燃エンジンとは直列に接続され、WECのハイパーカーで採用されているインホイールモーターや、F1で使用されている排気ガスによるターボの回転で発電する熱エネルギー回生システム(MGU-H)などは使用されません。

ロードストリートコースでは従来通りにブレーキング時にエネルギーが回生され、オーバルトラックでは同じくリアタイヤのブレーキング時にエネルギー回収されますが、その作動に関しては自動で充電されるシステムの他に、ステアリングホイールに装着されたパドルレバーを指で操作することによってコントロールできるようにもなっています。

回生されたエネルギーはオーバーテイクアシストシステム(プッシュトゥパス=P2P)動作時のパワーアップに使用され、ステアリングホイールに装着されたボダンを押すことで動作します。

今回の2日間のテストにはパロウ、パワー、ハータ、ロッシの4人が10月12日にドライブし、エリクソン、マルーカス、パロウ、パワーが13日にテストを行いました。

2018年インディ500で優勝しているウィル・パワーはスピードウェイでのハイブリッドシステムの基本的な使い方はドラフティング時にエネルギーを蓄えて、パッシングで使うことが一番効果的だとしています。

「ドラフティングで前の車の後ろにつき続けることは我慢の時間ではなく、エネルギー回収の大事な時間に変化すると思います。いままでは、リミッタ―当たってただ減速するだけだったりアクセルを緩めたりするだけの時間だったのが、エネルギーをフル充電できる貴重な機会に変わるわけです。今後はその時間の使い方が作戦として非常に重要になり、ドライバーの腕が新たに試されることになりますね」とパワーはこれまでのレースに全く新しい要素が加わるとコメント。

今回のテストで参加ドライバーたちは、従来ロードストリートコースでのレースで使用されてきたP2Pとの比較でどのような差があるのかを確認しているところですが、回生エネルギーの再利用によるパワーアップはレース中のさらなるアクションの増加を予感しています。2023年は17戦で記録的となる7,753回のパッシングがありました。

コルトン・ハータは単独走行でのエネルギー回生は走行抵抗を増大させてスローダウンにつながり、そのことがさらにパッシング機会を増やすだろうとみています。

「どういう使い方が効果的なのかを色々と探っています。今後はオーバーテイクする場所ややり方が大きく変わる可能性があります。攻撃と守りのバランスも大きく変わると思います。いずれにせよレースの仕方が大きく変わることは間違いありません」とハータはコメント。

インディカーのジェイ・フライ社長は「新たな機能が加わるということは、チームやドライバーの選択肢を増やすということにつながり、レース展開を多様化させるはず」とコメント。さらに、ホンダとシボレーの協力体制のもとで完成度の高いシステムが開発されてきたことを称賛しています。

2022年インディ500チャンピオンのマーカス・エリクソンは「すべてのシステムがマニュアル操作になるならば、レースには新たに頭脳戦という要素が加わって非常に面白い展開になると思います」とすべてをマニュアルで行うことを希望しています。

ホンダのハイブリッドプロジェクトリーダーであるマット・ナイルズは「ハイブリッドシステムの開発にあたって、超高速域での振動が及ぼす影響が一番の課題で、さらにはベルハウジング内での温度上昇の問題もありました。今後はパーツの扱い方や適切な使用方法などを各レーストラックでドライバーと綿密に情報共有していくことが大事になります」コメント。

シボレーでインディカープログラムのディレクターを務めるボブ・バックナーは「テストの度に多くの情報を収集し様々な収穫を得ています。今後のレースはこれまでにない新しい要素によって競争方法が多様化し、ドライバーの新たな力量が試されることになるでしょう。しかし可能性の展開はまだまだこれからです」とコメントしています。

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