ミッドオハイオへ向けてのレースカーセッティング






第9戦が開催されるミッドオハイオスポーツカーコースは1周=2.258マイル(3.6キロでターンは13。1962年開業、現在も当時のオリジナルレイアウトをとどめています。森の中にあって、ヨーロッパの古き良きスポーツカーコースの雰囲気を残していますが、小刻みな起伏が続く上に起伏の頂点(クレスト)のほとんどはターンのエイペックス付近にあることでレースカーが一瞬浮くような形になって荷重が抜け、アクセルワークを難しくしています。

今回はフンコスホリンガーレーシングでカラム・アイロットのエンジニアを担当するスティーブ・ベイカーに話を伺います。







【ミッドオハイオに向けての事前準備は?】
ロードアメリカとミッドオハイオでは、求められるものが完全に異なります。特に、トラックの路面の差は大きいです。ロードアメリカは半年前に前に舗装されたばかりで、ミッドオハイオは20年以上も前に舗装されたような感じで、かなり年季の入った路面です。ミッドオハイオのアスファルト舗装とコンクリート舗装の継ぎ目は非常に滑らかです。路面表面の細かな凹凸は非常に小さいです。なので、タイヤを温めるのには多くの労力が必要です。例えば、ロードアメリカではタイヤの温度が早く上昇していきますが、ミッドオハイオでは同じようにはタイヤ温度は上がりません。もう一つは、ミッドオハイオ自体の癖です。多くのコーナーがエントリーやコーナーの中間地点で起伏の頂点を越えるようになり、そこでは荷重が抜け気味になってタイヤグリップが減少するため、レースカーをうまく適応させなければなりません。例えばバーバーは、ミッドオハイオと同様に起伏が多くあります。しかし、バーバーでは多くのコーナーが起伏の底にあって、ミッドオハイオでは起伏の頂点を通過します。そのため、コーナーでのレースカーへの荷重変化に非常に注意しなければなりません。起伏が多いという部分では同じように見えますが、車がターンのエイペックスの起伏の頂点にあるか、起伏の底にあるかが異なります。

【路面がスムーズなトラックでは脚まわりを固くするのがセオリーですが、ここではどうですか?】
ミッドオハイオでは、脚まわりは少し堅めにして走る傾向があります。可能な限りサスペンションを動かしたくありません。サスペンションを固くするほど、車高の変化が少なくなり、軟らかくすれば車高がより多く変化します。理想としては、コーナー全体を通してドライバーに一貫した感覚を与えるために、できるだけ車高を保つことが望ましいです。車高が変化するほど、空力的なバランスが一貫性を失います。ドライバーが一貫して感覚を保てるように、コーナーのエントリー、ミドル、立ち上がりの各段階で車の挙動が分かり、感覚の変化が大きくならないようにするのが理想です。一貫したバランスを作ることは最も重要な要素の一つですが、これは難しい課題で、時にはエントリーで車に特定の動作をさせ、そしてミドルで別の動作をさせたいという場合もあります。そして、自分が苦戦している特定のポイントに焦点を当てた変更を絞り込むことは課題となるかもしれませんが、それが鍵です。ミッドオハイオでは、車高の変動とエアロの変動をできるだけ少なくするアプローチを取らなければなりません。

【ミッドオハイオではメカニカルグリップよりも空力重視なのですか?】
ミッドオハイオでは、タイヤの温度を適切に管理してメカニカルセッティングでバランスを取ることも重要です。トラック表面の細かな凹凸が小さく非常に滑らかななので、タイヤは路面表面のザラつきからはほとんど熱を発生しません。そのため、レースカーはメカニカルなセッティングでタイヤの温度を上げる必要があります。特に路面温度が一日の中で大きく変動する場合は、変化に合わせる必要があります。決勝日の朝のウォームアップセッションでは路面温度は20℃くらいでも、午後の決勝レースでは50℃近くになることもあります。路面温度が大きく変化する場合は、そのに応じてレースカーのセットアップを変更する必要があります。朝のウォームアップではタイムが出るまでには6周~8周ほどかかりますが、レースでは1周目または2周目でラップタイムが出る場合もあります。路面温度も高くてタイヤの温度の温まりが早いからです。なので、ミッドオハイオに関しては、そのような路面温度とタイヤの温まりかたを考慮する必要があります。特にミッドオハイオではほかのコースよりもその重要性が顕著になります。

【セッティングで重要なコーナーは?】
ミッドオハイオで最も難しい部分の1つは、ターン2への進入、ターン6を越えて、ターン9、そしてターン12に入るところだと思います。それは、車がコーナーへの進入またはコーナーの出口で起伏の頂点(クレスト)を越えるためです。正しいラインを通り、クレストの上でのレースカーの挙動にドライバーが自信を持てるようにすることが重要です。車が起伏の底を通過して上りに入ると、より多くの荷重とグリップ、ダウンフォースを得ます。しかし、クレストを越えると、荷重が抜けてすべてのグリップが失われます。したがって、セッティングのポイントは、グリップの不足とバランスの移動を可能な限り最小限に抑え、安定してコーナーに侵入できるようにすることです。それが特にこれらのコーナーでは最も重要なことになります。

【小刻みなコーナーに加えて長い直線もありますが、ギア比はどうしますか?】
ファイナルドライブとギアについて非常に多くの組み合わせがあるので、必要に合わせて調整することができます。実際には、ギアに関してはあまり妥協する必要はありません。直線でのトップスピードに関しては、ダウンフォースとドラッグの間で妥協しなければならない場合がありますが、ここでは実際にはそのような妥協はありません。ストレートは実質的に1本の直線しかありません。ロードアメリカのように非常に長いストレートですが、ミッドオハイオは実質的に90%がコーナーとブレーキングなので、可能な限り多くのダウンフォースが必要です。ギアについても同じです。なので妥協する必要性はありません。逆に最適なギアリングの選択肢がかなりあります。たまにターン7への進入でわずかな妥協に迫られることもありますが、それ以外のターンでは多くの選択肢があります。

【路面状況の変化に関してはどうですか?】
週末を通じて、路面のグリップは増加していきます。ラバーが溜まっていくにつれて、確実にコンディションは良くなっていきます。金曜日のプラクティスセッションが1回しかないので、路面状況の好転は以前ほどではありません。サポートレースの走行などの影響もあるので単純に比較はできませんが、プラクティスから予選、そしてレースまで、路面のグリップはかなり進化します。路面は週末を通じて進化しますが、午前と午後でグリップレベルの変化があります。朝は気温が低く、路面温度も低いため、午後よりもグリップがあります。路面温度が50℃近くになった場合は午前よりもグリップが減少します。この変化の影響は小さくはありません。予選開始時に路面温度が低いときは、発生するグリップ量を想定してタイヤの空気圧を適切に設定しなければなりません。すべてを正しく調整するためには正確な情報を持つことが大きな課題です。予選が非常に接戦状態なので、予選のグループステージで0.1秒でも遅れると、次のステージに進めない可能性が大きくなります。なので、車のバランスやタイヤなどを路面のグリップ状況とと路面温度にきっちりと合わせることは非常に重要になります。

【予選と決勝ではセッティングはどう変えますか?】
ほとんどのレーストラックでは、予選がかなり重要だと思いっています。ポイントは獲得できませんが、週末全体のスタートを切るために重要な役割を果たします。予選結果が良ければ、より良い週末を過ごすチャンスが大幅に増えます。ポイントは得られませんが、正しい軌道に乗せることができます。例えば、予選では主にソフトタイヤで最速ラップが記録されますが、ソフトタイヤの最速ラップが2周目や3周目、あるいは一部のトラックでは1周目になると正確に予測し、1周目や2周目のタイヤ圧を正しくするのに非常に細かな調整が必要です。レースになると、イエローや燃費調節、タイヤのセーブなど、より多くの要素が絡んできます。なので、車のセットアップに関しては、大きく異なることはありません。ただし、考慮しなければならない要素が多くなるため、細かな対応が必要です。例えば、約30周のスティント全体でうまく機能するレースカーにすることが必要です。レース中にはいくつかの変更を行いますが、最適なラップタイムを出すだけでなく、ドライバーが25周や30周を走るのに安定して一貫した走りができるように調整します。

【アイロットが好むセッティングはどのような傾向がありますか?】
一般的に、アイロットは他の多くのドライバーと同様に、完璧を求めます。彼はすべてのコーナーで完璧なバランスを求めています。彼はアンダーステアよりも若干オーバーステア状態の車を好みます。だからと言ってアンダーステアが苦手というわけでもなく、どちらにも対応できます。アイロットはヨーロッパでの経験が豊富で、様々な状況、条件、タイヤ、車などに適応してきました。彼は適応力が高く、様々状況や異なるタイヤにもすぐに適応します。今シーズンは各トラックでの経験値も上がっているので、彼がレースカーに求めることも多くなってきています。彼のフィードバックは適切で、車に対してのアイデアやリクエストは非常に役に立っています。また、ダンパーの変更に対しても非常に感度が高いです。ダンパー変更による変化は微妙で、すべてのドライバーがそれを感じ取ることはできませんが、彼はそれを感じ取ることを得意としています。彼は非常に優れた才能を持つドライバーだと思います。

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