賛否両論、ミリオンダラー・チャレンジ


Thermal, CA – during the 2024 INDYCAR $1 Million Challenge at The Thermal Club. (Photo by Joe Skibinski | IMS Photo)”




”ノーポイント賞金レース”として開催されたミリオンダラー・チャレンジは真新しいチャレンジとして注目を浴び、その結果を受けて酷評する声もあれば、次回に向けて新たな可能性を見出したという声もあり、賛否が分かれている。

このアイディアに至ったバックグラウンドと賛否の声を拾ってみます。

【開催のいきさつ】
開催のきっかけは、1997年から1シーズンも欠かすことなく開催されてきたテキサスモータースピードウェイ(TMS)での開催が2024シーズンには開催が無くなり、開幕戦から第2戦のロングビーチGPまで6週間の間隔があくことが問題となる。TMSでのレースはハイバンクオーバルならではのバトルが売りも、2017年にターン1-2側のコーナーバンクが24度から20度に改修されると同時にエアロパッケージの変更でサイドバイサイドが激減する事態となったが、この数年ではアウトサイドのグリップを増やすための走行セッションを設けるなどして、以前のサイドバイサイドが激増していた。なのに、どうしてTMSでの開催が無くなったのか。NASCARはTMSからほど近いオースティンにあるサーキット・オブ・ジ・アメリカズで2021年からカップレースを開催。当初は5月の開催だったこのレースは2022年から3月第4週の開催へ移動。インディカーとの複数年開催契約を持つTMSはNASCAR開催によって集客に影響が発生したことによって、2024年以降は3月4月以外への開催日移動を希望。しかし、2024年は五輪開催年で、8月の2週間はNBCの五輪中継スケジュールで埋まり、9月半ばまでの期間に開催できる週末がなく、開催契約が残るTMSはやむを得ず2024年の開催を断念。2025年は開催月を変更したうえで開催復帰が予想されている。

【6週間の間隔】
結果として開幕戦と第2戦ロングビーチの間が6週間あく結果となり、インディカーはNBCの放送枠が開いている3月24日の午前に特別イベントを行うことを決定。

【ザ・サーマルクラブでの開催】
高級会員制サーキットのザ・サーマルクラブ(TTC)は建設にあたっては、ペンスキーの様々なアドバイスがあり、ペンスキーコーポレーションとのつながりが最初からあった。富裕層であるTTCの会員から新たな投資を呼び込みたいインディカーと、特別イベントの場を会員にもたらしたいTTCはお互いの利益が一致、この6週間の空白期間をなくすためのイベントとして特別レースを行うことを2024カレンダーの発表に先駆けて2023シーズン中の9月9日に発表。

【2024カレンダーの発表と合同テスト開催の決定】
インディカーは毎年シーズン開幕前に実施する合同テストをこのTTCの特別イベントの週末に実施することに決定。おそらく、ハイブリットPUの部品供給の遅れで合同テストの実施が開幕前にはできないという状況の中で、合同テストを開幕後に送らせて実施したものと推測。この時点ではハイブリッドパワーユニットの導入タイミングは発表されていない。インディカーはトロント市議会の予算承認が決まるのを待って9月24日に2024カレンダーを発表。

【ミリオンダラー・チャレンジのレースフォーマット】
インディカーが獲得したNBC地上波の放送枠は2時間30分で延長は不可。このために、最大時間を設けたスプリントレースの勝ち抜き戦というフォーマットを採用。ファイナルレースはタイヤがギリギリ持つ20周と設定され、燃費レースにならないようにハーフタイムを設けて給油可能なルールを設定。6人の勝ち抜きを決めるレースは放送時間から10周最大時間20分と設定するも、放送枠に収めるにはぎりぎりで、中継開始時にはすでにパレードラップは開始しているほどタイトなスケジュールに。

ここまでが開催の大雑把な流れ。以下はレース後の反応。

【否定的な意見】
メディアの反応として否定的なものの代表としては
○レースフォーマットが中途半端
○ファイナルレースの前半10分が退屈なパレード
○賞金が少なくクラッシュダメージのチームへの負担が増
○高額な観戦チケット
優勝賞金が50万ドルであったのは、そもそもドライバー(チーム)とくじ引きによって組み合わされたTTC会員にも50万ドルの賞金が授与されるというもので、最初から50万ドルの山分けという設定。しかし、急遽、TTC会員への賞金授与に関しては発表が無くなり、ドライバー(チーム)への50万ドルという公表になっています。おそらく、会員個人への高額賞金(会員にとっては高額かどうかは判断不能)の授与で浮き上がる税制扱いでの問題などが生じたかと想像します。

多くのメディアがヒートレース1の1周目でクラッシュしたグロジャンの感情的なコメントを引用して感情的な批判を展開していますが、レースでのクラッシュはどのタイミングであろうと想定内で、ましてやグロジャンのクラッシュ批判は説得力に欠けます。ビーケイには同情します。

【建設的な意見】
批判的な声がある一方で、新たな試みへの建設的な意見は少なくありません。レース後に多くのドライバーやチーム関係者にインタビューを試みたインディスター紙のネイザン・ブラウン氏のリポートによると以下の意見がありました。
https://www.indystar.com/story/sports/motor/2024/03/26/indycar-1-million-challenge-the-thermal-club-changes-heat-races-larger-purse-offseason/73022615007/

○ヒートレースを2回実施し、2回目はリバースグリッドとして2レースの平均順位でファイナリストを決定。
○ヒートレースを2回実施し、それぞれのヒートでハードかソフトの2種類のタイヤの両方の使用を義務付ける。ヒート2はヒート1の結果でグリッドを決定する。
○20周のファイナルレースではグリッド後方ほどプッシュトゥパスの使用時間を増やす
○1周ずつ最後尾を失格にして最後尾バトルも演出する
○20周のファイナルレースはハーフタイムを廃止してアンダーグリーンでの給油のみのピットストップを義務付ける
○ファイナルレースの20周をフューエルギリギリ足りない周回に設定し、”チキンレース”にする
○TTCではなくテキサスモータースピードウェイで特別戦を実施する

2025シーズンはテキサスモータースピードウェイでのイベントがどの時期に組み込まれるのか。ある意味、”やむを得ず”開催されるに至ったノーポイント賞金レースは継続してやる価値があるものになるかどうかは、2025シーズンカレンダーの再編次第になるかと思われます。

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