ラグナセカレースでのレースカーセッティング






最終戦の舞台はカリフォルニア州モントレーにある伝統のロードコース、ラグナセカレースウェイ。1周は2.238マイル(3.6キロ)でターン11。高低差は約55mあって、ターン8と8Aは”コークスクリュー”と呼ばれ、ここだけで一気に18メートルを駆け下ります。

予選のトラックレコードは2000年にエリオ・カストロネベスがチャンプカ―で記録した1:07.722。 











この最終戦では金曜日からのレースウィークエンドに加えて木曜日には5時間のオープンテストが実施され、全車が参加する予定になっています。

今回はアンドレッティオートスポーツでコルトン・ハータのエンジニアを担当するネイザン・オルークがラグナセカレースウェイでのレースカーセッティングを解説します。

【ラグナセカへ向けての事前準備は?】
この企画はレースカーのセッティングがメインテーマですが、基本的にはどのチームのどのクルマもやっていることに大きな差はなくほぼ同じなので、すべてがドライバーにかかっていると言えます。そのためにはコルトンにとって乗りやすい車に仕上げることが重要になります。それぞれの箇所でコルトンのドライビングスタイルに合ったレースカーに仕上げれば彼は最高のドライビングを見せてくれます。セッティングに関しては、好みがはっきりしているタイプです。なので、セッティングに好みが合わないとなかなかタイムが上がらず、その代わりに好みのセッティングに仕上がると速さを見せるタイプです。
ラグナセカではすべての要素が彼に合っていると思います。コーナーでのラインなどは彼の好みで快適なバランスのレースカーを提供できるレーストラックです。ここでは2勝を挙げ、だれもが彼の速さを認めています。彼の父親のブライアン・ハータもここでも速さを見せたことは誰もの記憶にあって、様々なアドバイスがコルトンに伝えられたのかもしれません。しかし、実際にはブライアンとコルトンは全く違うスペックのレースカーであって、レーストラックにも改修が入っていることもあって、ブライアンのアドバイスがそのまま通用するとは思えません。なので、ここでの速さはコルトン独自の才能だと思っています。ルーキーイヤーからいきなり速さを見せていました。
多くの人々に忘れられているかもしれませんがは、その年はコルトン以外のレギュラードライバー全員がラグナセカでの事前テストに参加していましたが、コルトンはレースウィークエンド金曜日からいきなり最速でした。そして、結果的にポールトゥウィンでレースを制しました。ラグナセカはロードコースとしてはかなり特徴的なレーストラックです。今年は路面が全面再舗装されましたが、昨年までの古い路面は非常に荒れていてタイヤの摩耗が激しく、ロングランの決勝ではタイヤが劣化してからの走りが重要になっていました。昨年のアレックス・パロウは得意だったのは劣化したタイヤでの走りでした。
昨年のレースでは3ストップと4ストップに別れましたが、パロウは3回ピットストップ作戦で4ストッパーと同じペースで走っていました。彼はハードタイヤでもソフトタイヤでも何か最良の方法を見つけたようです。彼はその強みを今年も存分に発揮しています。パロウのタイヤの使い方は抜きに出ています。なぜパロウが劣化したタイヤでもいいペースで走れるのかは我々最大の関心事です。しかし、今年は新しく再舗装された路面が状況を少し変えることになるでしょう。
去年までの路面は非常に古く、過去20年以上も使い続けてきたので、レーストラックの特定の場所が絶えず摩耗し、表面のアスファルト部分が摩耗して下からは岩のような基礎部分が露出してタイヤを非常に摩耗させていました。その路面状況はソノマに似ています。しかし、今週はその心配はなくなります。新しい舗装のために路面のアスファルトはまだ黒っぽいので、おそらく路面温度がはこれまでよりも高くなる可能性があることを意味しますが、路面は滑らかでスムーズになるので、タイヤの摩耗だけでなく、熱による劣化に気を使わなければならなくなるかもしれません。

【熱対策で何か新たに必要なことはありますか?】
ある程度は必要になるかと思います。再舗装された新しい路面にタイヤのゴムが付着すると、ラップタイムが増加します。なので、コーナーを高速で走行するほど、レースカーのゴムに路面にこすりつけていく量が増えてきます。この結果グリップは徐々に増加していきますが、それまでにタイヤをスライドさせるとタイヤが摩耗し、熱が発生します。なので、グリップが増加するまでは熱対策考慮する必要があります。たとえば、重さ2,000ポンド(907g)の車が3Gのダウンフォースでコーナーを走行する場合、2,000ポンドの車重が6,000ポンド(2722㎏)に増加することになります。速度が増すにつれて、ダウンフォースによってタイヤが路面に押さえつけられることになります。
今年はロードアメリカも再舗装されて、そこで新しい路面でのタイヤに関する情報を得ることができました。新しい路面の影響でレースカーに求められるバランスが変化し、セットアップを変更することで対応しなければなりませんでした。最終的にはタップタイムは速くなり、タイヤの劣化も改善されました。なので、今回のラグナセカでもロードアメリカと同様な対処が必要になり、ラップタイムは上がると同時にタイヤへの攻撃性は減ることになるでしょう。

【新しい舗装に対しては具体的にはどのようなことが必要になりますか?】
ロードアメリカと同様の対策が必要になると思いますが、違う部分もあるかと思います。まずは、車のバランスがどのように変わるかです。同じセットアップで路面が変わると、アンダーステアなのかオーバーステアなのかどのように変化するかは実際に走らせてみないとわからないと思います。シミュレーターでは正確には予測できないと思います。うまくいけばそれほど大きな変化は起きないかもしれません。しかし、ロードアメリカではセットアップの変更が必要で、私たちはそれらの変化にかなり速く適応することができました。パフォーマンスの点では、いくつかの理由からラグナセカでもうまく行くと予想しています。まず、コルトンが非常に得意としているコースであり、これまでもニュータイヤを素早く温めて数ラップでいいラップを出すことができています。
タイヤの摩耗は昨年よりもはるかに少なくなっていることは確実です。しかし、アレックス・パロウがどうして摩耗したタイヤでも速く走れるのかに関してはまだわかっていません。路面の再舗装でタイヤの劣化が少なくなったのはいいのですが、パロウとの差を縮めることができるかどうかは不確定です。それでも、得意のコースでタイヤを温めるのも早いコルトンのスキルレベルを鑑みれば大いに期待できると思います。コルトンはロードアメリカでポールポジションを獲得し、55周のレースで33周をリードしました。最後は燃費の問題でペースを落とさざるを得ませんでしたが、コルトンのスピード自体は十分で優勝に値するものでした。

【ラグナセカでは縁石の使い方が重要ですが、再舗装で何か変化はありそうですか?】
レースカーの車高に関して、ロードアメリカを例に挙げると、ラグナセカでも同様の手法で臨むことができると思います。路面のバンプが無いので車高をぎりぎりまで低く設定できると思います。しかし、ロードアメリカは全体的に速度が高いレーストラックで大きなダウンフォースが発生して大きく車体が押さえつけられるために、実際にはライドハイトを高くせざるを得ませんでした。それでもコースのそこかしこで底付きしていました。高い速度域で強烈なダウンフォースが発生し、車高変化に対応して車高を上げておく必要があったのです。滑らかなトラックとバンピーなレーストラックのもう一つの違いは、滑らかなレーストラックではドライバーが底付きを感知しにくいことです。一方でバンピーなレーストラックでは、底付きを感じやすいです。ドライバーは、頻繁にバンプにぶつかるので、底付きすぐに感じるでしょう。滑らかなレーストラックでは、その滑らかさのため、車の底が地面にゆっくりと接近し、まるで飛行機が滑らかに着陸するように緩やかに路面に接触します。なので、ドライバーは路面との接触を感じにくく、結果的に速度に影響をもたらすという悪い結果を生み出します。
底付きがあまりにも多いと、速度に影響するのでラップタイムにも影響します。なのでラグナセカでの底付きに関しては慎重に対応しなければなりません。高速コーナーのターン6、9、10ではロードアメリカほどではないにしても、それぞれのターン手前のトップスピードになる場所で底付きが発生します。しかし、ラグナセカでは、これらのターンは高速コーナーなので、レースカーが遠心力でロールすることによる底付きも発生します。特にターン10では、ロールで底付きが発生しますが、その前の左ターンのターン9では車体の右側が地面に接触し、ターン10を通過するときは、車体の左側が接触します。その場所では十分な注意が必要です。
ラグナセカでは、ターン9とターン10が非常に高速でダウンフォースによって車高が沈み込むので、そこに合わせて車高を設定する必要があります。バンプに関しては心配する必要はありません。縁石ではターン6のエイペックスと出口で縁石に乗り、最終ターン11の出口でも縁石にのりますが、状況によってはその縁石を乗り越える車高を考慮する必要が出てきます。ロードアメリカで再舗装にあたって、すべてのアスファルト舗装を撤去しましたが、ターンの形状を正確に残した上に縁石もそのまま残しました。なので、ラぐナセカでもまずはそのことを確認する必要があります。バンプがなくなり、トラクションが向上すると、通常は足回りを硬くして走らせる傾向がありますが、それが常に正しい方向だというわけではありません。おそらくほとんどのチームは、トラックが再舗装されたからといって、車を大きく硬くしていくことはないでしょう。レーストラックがどのように変化したかを正しく評価できるように、従来のラグナセカで使用したセットアップやミッドオハイオのセットアップなどをまずは使用して変化を探っていく行く方が良いでしょう。

【ラグナセカでトリッキーな部分はありますか?】
低速コーナーと高速コーナーの速度差と、そこでのメカニカルグリップとエアロダイナミクスのバランスがラグナセカでは重要です。過去には、バンプ対策を考慮しながら最終ターン11の立ち上がりのトラクションを良くするのと、高速コーナーを安定させるために大きな妥協が強いられることがありました。今年はレーストラックの路面が新しいため、トラクションがかなり向上すると想定していますが、実際にはどうなるのか正確にはわかりません。コークスクリューは確かに面白いコーナーですが、あそこは低速コーナーと高速コーナーの中間的であると言えます。なので、コークスクリュー向けに施すことは特にありません。最終ターン11のような低速コーナーと、ターン6、9、10のような高速コーナーでの両立が最も難しい部分です。

【予選と決勝レースではセッティングはどのように違いますか?】
どのレーストラックでもそれは重要な課題になります。タイヤの劣化は、タイヤ自体のスペックややレーストラックの経年劣化の影響のせいか、一部のレーストラックではかなり大きな要因となっています。正直に言って、今やすべてのレーストラックで大きな要因となっています。かつてストリートコースではタイヤの劣化を気にする必要がなかった時期があり、今では逆に最も大きな懸念事項になっています。今では、数ラップの予選と、フルスティントでのタイヤの持ちを考える際に、車のセッティングとドライビング方法の切り替えは必須項目です。
率直に言って、そこは我々チームの弱点でした。いくつかのレースでは良い予選を出すことができましたが、決勝レースでペースが維持できなかったこともありました。なので、シーズン後半はすその部分に焦点を当ててきました。原因を究明して対策していくことが必要でした。結果的には多くの点で改善できたかと思います。レース序盤の数周を犠牲にしてでもフルスティントを優先することが本当に大事になります。

【コルトンは才能に恵まれ、さらにその技術を磨いていますが、どうしてラグナセカで速いのですか?】
彼がドライビングスタイルの秘密に関しては明かしたくはありませんが、前に言ったように、彼が車を運転する方法や車のバランスをつかむためのアプローチが、ラグナセカで求められる特製とマッチしていることが理由の一つです。相性がいいのです。これまでもチームメイトの何人かがコルトンと同じセットアップで走ったことがありましたが、コルトンのようなラップタイムは出ませんでした。コルトンのセットアップとは違うアプローチに切り替えることで、ラップタイムを上げることができました。時には、コルトン自身もセットアップで迷い込むことがあるので、本当に難しいと感じています。
どんなドライバーであっても、速く走るために何かが必要なのかに迷いが生じたり、セッティングの変更が期待とおりにならなかったりして混乱することがあるかもしれません。しかし、そういうことが彼らを速くする要因の一つになっているのかもしれません。ラグナセカで、コルトンは車にどのような動きをさせたいのか明確なビジョンを持っていて、その方向性でセッティングを施すと、結果を出してくることが非常に多いです。そして、私がその結果に対して正しく理解できていれば、さらに彼を速くすることができると思います。それはコルトンが19歳の時から全く変わっていないことなのです。

【最終戦モントレーGPは日曜深夜4時から生中継】
次戦はいよいよ最終戦。
ラグナセカレースウェイでの第17戦モントレー・グランプリは
GAORA SPORTS他、配信プラットフォームで
9月10日日曜日深夜3:30(月曜早朝)から生中継!
https://gaora.co.jp/motor/3652800https://gaora.co.jp/bros/https://skyperfectv.co.jp

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