ポートランドでのレースカーセッティング






アメリカ西海岸に面したオレゴン州にあるポートランド・インターナショナルレースウェイは1周=1.964マイル(3.16キロ)で、ターン12。コロンビア川の中州にあるので高低差はほぼなく、トラックレコードは2018年にウィル・パワーが記録した57.2143。

今回は、そのパワーの担当エンジニアのデイビッド・ファスティーノにポートランドでのレースカーセッティングについて伺います。







【ポートランドへ向けての事前準備は?】
レーストラックは平坦で高低差がありません。これは他のロードコースと比較しても独特なキャラクターです。ポートランドはコーナーリング時間が非常に長いコーナーが多く、コースのどこでも全体的に速度レンジが高くなります。全長2マイルですが、ラップタイムは60秒以下で平均速度は120マイル(19Km/h)で周回することになります。課題は、これらの長時間のコーナーリングで高いコーナースピードで通過できる車を作ることです。特にターン4からターン7にかけては、ずっと左右に振られる高速コーナーで繋がり、全体のラップタイムのかなりの部分がこのコーナリングタイムに影響されます。
また、これらはブレーキングが少ない流れるようなコーナーで、できるだけスピードを維持しつつうまく出口へ向けてラインを取ることが重要です。一方で、ターン1と2のシケインで減速と加速のトラクションが求められるストリートコースのような要素もあります。実際のところは高速コーナーでターンインがスムーズなセットアップは一般的にトラクションが良くなく、時にはブレーキングでも苦労することがあります。さらに、ターン9から11は、ほぼフルスロットルで走行するセクションで、高速で安定性が求められるセクションです。ここで車が不安定になる傾向があります。このような3つの特徴全体をうまくつなげるのは非常に難しいです。このようなフラットで速度域の高いレーストラックはポートランド特有で、全体的にラップタイムを引き上げるには必ずどこかで妥協しなければなりません。

【あえて妥協するとしたらどのセクションですか?】
それぞれのセクションの通過タイムを比較する必要があります。予選では、バックストレートの終わりの高速ターン10-11のセクションタイムと、S字ターンの4-5-6-7でのセクションタイムを比較して見ることが重要です。ラップタイムを詰めるには、どのセクションが全体ラップタイムに対して影響を与えやすいのか、特に予選の場合はそこに焦点を当てる必要があります。どのコーナーが最も大きな影響をもたらすか、そのコーナーに焦点を当てて他の場所でもできる限り最善を尽くすように合わせます。決勝レースでは状況は少し変わります。フロントストレートエンドが大きなパッシングポイントになるので、ターン10、11、12からストレートへの立ち上がりをできるだけスムーズに速く通過して加速することでストレートスピードに繋げることができます。なので、予選とは違ってその最終セクションに重点を置くことになるかもしれません。これがポートランドでの一般的なアプローチです。

【ライドハイト(車高設定)はどうですか?】
ターン1と2のシケインはコンクリート舗装で、ここには多少の凹凸があります。ターン10から11へは縁石に乗りながら通過し、ターン12に入るところでは、レースカーに上下の動きが発生します。バンピーと言えるのはターン1と2だけで、その他の部分は路面は滑らかです。しかし、そのバンピーなターン1-2に対してライドハイトを調整する必要はあまりありません。シケインは低速コーナーなのでバンプによる底つきはほとんど発生しません。ただし、予選中に縁石に乗るターン10と11に向けて進入する際には、バックストレートエンドで車速が上がってダウンフォースの影響が増えて車高がぎりぎりまで下がっているので、ライドハイトに注意する必要があります。
ほぼアクセル全開で左側の縁石に乗りながらターン10に進入しますが、車体が若干ロールして底付きすることがあります。そのターンを通過するときの車高には注意が必要です。その他の部分は車高については妥協できます。サスペンションを硬くして車高をぎりぎりまで低くセットアップすると、ターン4、5、6、7でタイムを短縮することができますが、ターン1-2で少しだけタイムを失うかもしれません。なので、どこでどれだけタイムを稼げるかのバランスが重要です。理想を言えば、できればターン1-2で足回りを柔らかめに設定し、4-5-6-7で硬く設定できればベストですが、実際にはどちらかに合わせてセッティングしなければならないので、ドライバーからのフィードバックや全体のラップタイムを精査してとってベストとなるように妥協します。

【レーストラックとしては割と単純ですか?】
単純ゆえに非常に制約されることが多く、先の理由から最適なバランスを見つけるのが難しくなります。車を高速で安定してターンさせようとするとトラクションに影響を与え、他の部分に影響を与えます。そして、どこでどのような影響があるかをドライバーにできるだけ正確にリポートしてもらうことは重要です。昨年のセッティングは少し極端に降り過ぎてしまったかもしれません。チームメイトのスコット・マクロクリンはポールポジションを獲得しましたが、我々は予選3位でした。

【ギア比の設定に関しても妥協を要求されますか?】
ギア比の設定ではポートランドはその点で状況は悪くはありません。ロングターンではシフトチェンジすることができない箇所もあります。また、コーナースピードが様々で、低速、中速、高速のコーナーがあって、各コーナーに適したギアを設定することができます。ギアリングの観点から見ると、特に挑戦しなければならない部分はありません。

【ほかの常設ロードコースと比較してポートランドの特徴は?】
実際には似たような速度のコーナーが複数あるトラックだとギア比の選択が課題となります。と言うのも、コーナーリングスピードが7mph(11km/h)ほど違うだけで、ギア選択が変わるからです。セントピーターズバーグや、以前のデトロイトのベルアイルでは、このようなケースが頻発します。1速と2速の中間が必要なコーナーが多くあって、ドライバーはどちらのギアでも少し違和感を感じます。速度差が大きい常設ロードコースの場合、速度を落とさないように流れで走れるるようにできれば、加速する部分が少なくなり、ギア選択が楽になります。なので、ポートランドでは、他のストリートコースで起きるようなギア選択の問題は発生しないと言えます。

【ポートランドでトリッキーなセクションはどこですか?】
エンジニアとしての視点とドライバーの視点では、ちがった答えになるともいます。エンジニアの視点で見ると、最も難しいのはバックストレートからターン10-11と12へのエントリーです。ここはトラック全体のなかでセッティングに妥協が求められるからです。できるだけ足回りを固くして車高を低くして空力的に安定させて速度を維持できるようにしたいです。もし、ターン10で底付きなどが発生した場合、ターン11に続いて12でも挙動が乱れます。ドライバー視点では、ターン10と11の超高速セクションでは足回りの挙動が安定した自信が持てる確実なセッティングにして、ターン12をスムーズに立ち上がれるようにしたいでしょう。

【予選セッティングと決勝セッティングでの妥協点はありますか?】
妥協はありません。大事なのは決勝レースで安定したロングランをすることです。なので予選後のプラクティスセッションで安定したロングランができるようにします。ドライバーが一発のラップタイムを気にせずに長時間安定して走行できるレースカーになっているか挙動を確認して、あとは、決勝日の天候、路面状況、使用するタイヤスペックに合わせて微調整し、ドライバーの好みにあわせるようにして、レース中の状況変化に合わせていくようにします。
正直なところ、ウォームアップセッションは非常に重要なセッションの1つです。予選前のプラクティスでロングランをすることはありませんし、それができるような十分な数のタイヤもありません。なので、ウォームアップセッションがロングランを行う唯一の機会で、レースシミュレーションができる唯一の機会です。最近のインディカーではタイヤの摩耗が大きめで、ラップタイムに大きく影響してくるの、ここで事前に確認しておくことが本当に重要です。

【ポートランドでのパワーの走りはどうですか?】
ウィルは、コーナーへの進入から中間部にかけてスピードを保ちながらラップタイムを稼ぐことが好きなタイプのドライバーです。そして、ハンドリングバランスがぎりぎりの車を上手に制御することができるます。そのテクニックが非常に長けていると思います。逆を言うと、彼が限界を超えてしまわないようにコントロールさせること必要もあります。今回もそれに焦点を当てて取り組んでいくことになるでしょう。

【シーズン残りは西海岸での2連戦】
シーズン残すはオレゴン州ポートランドとカリフォルニア州ラグナセカでの2連戦。
第16戦ポートランド・グランプリは
GAORA SPORTS他、配信プラットフォームで
9月3日日曜日深夜4:00(月曜早朝)から生中継!
https://gaora.co.jp/motor/3652800https://gaora.co.jp/bros/https://skyperfectv.co.jp

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