セントピート市街地でのレースカーセッティングの極意






開幕戦の舞台となるセントピーターズバーグ市街地コースはローカル空港の滑走路と市街地一般道を組み合わせた1.8マイル(2.9km)14のターンを持つコースで、アスファルト舗装とコンクリート舗装のミックスサーフェイスになっています。

チームペンスキーのエンジニアで、スコット・マクロクリンを担当するレースエンジニアのベン・ブレッツマンがストリートコースでのインディカーのセッティングを解説します。

【質問】セントピーターズバーグでのセッティングの方向性は?

【ベン・ブレッツマン(BB)】シーズン開幕戦ということで、例年通り色々と仕事量が多くなります。しかし、セントピーターズバーグは2005年よりほぼ毎年開幕戦として開催され、じゅぶんに走行データのあるコースなので、総合的に様々なことを判断、評価することができます。一般的なストリートコースはコンクリート舗装やアスファルト舗装に加え、エポキシ素材のシール材など様々な路面状況が混在していますが、セントピートは過去の5年間くらいの間で改良が進み、再舗装された部分が多いので、ストリートコースとしてはグリップレベルが高いです。他の特徴としては1速か2速で走る90度コーナーが多く、コーナーリング時間がどこも短いことがあげられます。その結果、ロングビーチなどと比較しても加速と減速を短時間に頻繁に繰り返すことになります。なので、クイックな挙動のコントロールとアンダーステア対策が重要になりますが、ストレートエンドからターン1、2、3へ向けてはクイックな動きとなり、ターン3は比較的高速で抜けるコーナーなのでトリッキーです。

【質問】低速セクションと高速セクションの両立が必要ですか?

【BB】その通りです。最終ターン手前のターン11と12のS字の部分もクイックな動きで時速は150マイル(241km)を超えます。決して低速コーナーではなく、90度コーナーの連続部分とは対照的です。ロングビーチにはこのようなハイスピードコーナーはないのでキャラが全く違います。トロントも高速コーナーは無くて、せいぜい速くても3速なのでこちらも全くキャラが違いますね。なので、セントピートではこれらの高速セクションの安定性をまずは第一に考えます。その後に低速セクションでのアンダーステア対策を考えます。しかし、高速コーナーでの安定性と低速コーナーでの安定性は相反する要素なのです。なので、ターン2からターン3の素早い切り替えしセクションとターン4からターン9までの直角コーナーが続くセクションをどのように合わせ込むのかという、非常に厄介な課題を克服しなければなりません。コーナーリング速度を上げるにはブレーキングをできるだけ短くする必要があります。 そして、できるだけアンダーステアにならないようにすることが必要ですが、そうすると今度は高速セクションで不安定になります。セントピートは90度のコーナーがたくさんあるので、できるだけ早くブレーキペダルをリリースして速度を維持しなければなりません。高速コーナーでの安定性と90度コーナーで最大限のフロントグリップの確保がここでのカギとなります。

【質問】具体的にはどのように対策をしますか?

【BB】セントピートは、トロントやナッシュビルよりも滑らかなトラックで、グリップが少し高いため、対策の選択肢は多いです。アンチロールバー、スプリング、ダンパーの他に様々な部分で対策ができます。ナッシュビルやトロントのようなバンピーなコースはレースカーが跳ねてしまうのですが、セントピートの路面は比較的スムーズなのでスプリングも硬めにすることができます。そのメリットは、車高をより下げることができ、その結果、前後のウイングを路面に近づけることができるので、それだけダウンフォースを多く得ることができます。なので、セントピートでのセッティングは他のストリートコースよりも少し攻めたセッティングにすることができます。

【質問】レースカーのバランスをどのようにとるかは難しい課題ですが、妥協しなければならないことはありますか?

【BB】ドライバーは全てのコーナーでも完璧に走ろうとしますがセントピートは高速セクションと低速セクションが混在します。高速セクションで安定性を確保しようとすると、今度はターン4からターン9○での低速セクションでタイムをロスする可能性があります。先ほど言ったようにセントピートはトロントやナッシュビルほどバンピーではないので、レースカーのセッティングへの依存度はそれほど高くはなく、ドライバーが対応することで最大限のトラクションを確保することができると思います。高速セクションでクルマが十分に安定するまでアンダーステアを減らすことが重要ですが、セントピートはコースのほとんどの場所で十分なグリップがあり、タイヤにも十分なグリップがあるため、しっかりとトラクションを得ることができます。ここではトラクション不足に悩まされることはありません。なので、ここではアンダーステアを解消するために妥協するようなことはあまりありません。

【質問】ここのコースは週末を通じての路面のグリップ状況はどう変化しますか?

【BB】セントピートの路面は週末を通じて安定していると思います。基本的にはサポートレースの影響の有無なのですが、例えばロングビーチGPではIMSA(ミシュランタイヤ)のあとに走行することになるので、グリップレベルの変化は大きいですが、セントピートではそれほど大きくはありません。ナッシュビルやトロントも最初のグリップレベルが低くて徐々に良くなっていきますが、セントピートはアスファルト部分の再舗装も行われて最初からグリップレベルが高いので、変化量としてはさほど大きくはありません。

【質問】今年からはインディネクストも同じファイアストン製タイヤになりますが、路面のグリップ状況は今まで以上によくなると思いますか?

【BB】まだはっきりとはわかりませんが、インディネクストのタイヤはこれまでのインディカーにかなり近い特性になると思われます。なので、少なくとも悪い影響を及ぼすことはないと考えます。インディカーと同じコンパウンドのタイヤのインディネクストが20台近く走ることを考えると、逆にいい結果をもたらすのではないかと思います。いずれにせよ再舗装された部分があるので高いグリップレベルが維持されると思います。つまり、インディネクストの走行で路面状況はさらに良くなっていくと思います。

【質問】セントピートで一番厄介な部分は?

【BB】一番難しいことはドライバーの好みのセッティングに近づけることでしょう。特にターン4と5でのバランスと予選です。ターン4は短いストレートの先にあってハードブレーキングで飛び込むのでリアタイヤがロックしそうな状況でターンに入ってきます。特に予選ではその傾向が強くなります。ターン4の通過の仕方によって続くセクションでのタイムに影響を及ぼします。ターン4で早めにブレーキングし、速度を維持したままターン5に入ると理想的な走行ラインでターン8 、ターン9をつなぐことができ、ラップライムに反映させることができます。なのでターン4へのアプローチの仕方はラップタイムに大きく影響すると言えます。

【質問】去年の開幕戦ではスコット・マクロクリンが圧勝しましたが、その時のレースカーのセッティングで何か大きく変えたものなどはありましたか?

【BB】去年の開幕戦はマクロクリンと組んだ最初のレースだったので、オフシーズンに二人で2021年のデータなどを徹底的に確認し直しました。彼がどのようなレースカーを好むのか、ブレーキングやアクセルワークの癖や好みのハンドリングバランズ、特にフロントタイヤのグリップ特性などをしっかりと分析し、その結果、私たちは余裕を持って開幕戦を迎えることができました。基本的には彼のレースキャリアで経験を積んできた好みに合わせて車を作るようにしました。 スコットはスーパーカーレースの経験が長く、ブレーキングの仕方がインディカーとはかなり違うので、極力彼の好みに合わせるようにしました。シミュレーターテストを重ね、新たなパーツも投入して彼の好みのレースカーに仕上げることができたと思っています。

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