インディカーレースでは、
ハイスピード故に事故が起きれば、
ドライバーは激しい衝撃に見舞われます。
160G。
これは、2000年のインディ500予選中に
松田秀士さんがクラッシュした時にレースカーが記録した衝撃度です。
そして、2009年のインディジャパンで予選中に
武藤英紀選手がクラッシュした時にレースカーが記録した衝撃度です。
松田さんは左足の複雑骨折と手首の骨折。
武藤選手は手足の打撲。
両者共に生還したのもさることながら、
この9年間でレースに付帯する安全性が
大きく向上していることにも驚かされます。
レースカーの改良もさることながら
両者の違いを生んだ一番大きな要因は、
SAFERバリアーの導入によるものです。
スチール・アンド・フォーム・エナジー・リダクション
の頭文字を取って「セーファーバリアー」と発音します。
従来のコンクリート・リテイニングォールの前に
鉄製のチューブを束ねた外壁を置き
その間に発砲ウレタンを挟んで衝撃吸収構造を設けています。
これで、レースカーがウォールにクラッシュしても、
衝撃度が大幅に緩和されました。
一番の問題は事故後なのですが、
レースカーは修理すれば大丈夫ですが
ドライバーはそういうわけには行きません。
インディカーシリーズでは事故によって、
脳震盪を起こしたと見られるドライバーには
一定のルールを設けています。
?7日間の静養
この間はレースカーのドライブは許されません。
?インパクトテスト
7日間の静養後に様々なテストをもう一度行い、
●脳波、心電図のチェック
●視力、動体視力の確認
●記憶の確認
●反射の確認
●色覚の確認
などの精密検査にパスしないとドライブが許されません。
また、負傷したドライバーへの応急処置ですが、
レースカーに搭載された「データレコーター」から
様々なデータが取り出されて
ドライバーがどのような衝撃に見舞われたのかを
把握して応急処置をします。
このデルファイ製の
「アクシデント・データ・レコーダー3=ADR3」の重量は約600グラム。
独自にバッテリーを搭載し、外部からの電源が絶たれても機能します。
激突感知の4分前から、レースカーが停止した1分後までのデータを記録し、
41chの入力があり、
それぞれのchでは1000分の1秒単位で各種データを収集します。
中でも一番重要な情報は、
ドライバーの頭部にどのような衝撃が働いたかです。
それを感知するのが「イヤピースセンサー」です。
これは、ドライバーが無線交信するために使うイヤフォンの中に
3方向の加速センサーを埋め込んだものです。
左右の両耳で、合計6方向の加速センサーを備えます。
この位置で加速度を記録すことで
脳に受けた衝撃度を知ることができるわけです。
これら、「ADR3」や「イヤピースセンサー」は
F1でも使用が義務付けられています。
ちなみに、ドライバーの頚椎を保護する「HANSデバイス」や
レースカーのタイヤの空気圧をリアルタイムでモニターする装置なども
インディカーの世界からF1へ導入されました。
事故での160Gオーバーは15年前であれば死亡事故を意味する衝撃度でした。
しかし、これらの安全技術の絶え間ない進歩によって
確実にレースでの安全性は進歩を続けています。