ゲートウェイでのレースカーセッティング






今週末はシーズン最後のオーバルレースとなるゲートウェイ500。レーストラックは1周=1.25マイル(2キロ)のショートオーバル、ワールドワイドテクノロジーレースウェイ(WWTR)。



コーナーバンクは、ターン1-2で11度。 ターン3-4で9度。
フロントストレートは586m、バックストレートは602mあって、ペーパークリップのような細長い形のエッグシェイプオーバル。



今回はオーバルイベントでは初めてオルタネート(ソフトコンパウンド)タイヤが各車1台に2セットが供給されます。







昨年のゲートウェイ500ではルーキーのデイビッド・マルーカスが予選12位から追い上げて2位フィニッシュするという活躍を見せました。今回はそのマルーカスの担当エンジニアのデイルコインレーシングw/HMDのアレックス・アサナシアディスにWWTRでのセッティングについて伺います。

【WWTRへ向けての事前準備は】
事前準備の面では、ストリート、ロード、オーバルいずれを比較しても、それほど大きな違いはありません。必要なのは様々な条件に合わせて準備することで、レーストラックの路面の変化や、使用されるタイヤのスペックなどを十便に把握しておくことです。とくに今年は初めてのソフトタイヤが使用されるので、効率的に使用できるように準備をしておくことが重要です。また、デイビッドの好みにマッチするように準備することも必要です。ただし、他のどのレースに向けても、私が最初に始めることは、これまでの履歴を細かく確認することです。基本的にクルマを大きくいじることはなく、微調整する程度です。

【WWTRはテキサスやアイオワと比較してどのような特徴がありますか?】
WWTRはテキサスとも違いアイオワとも違います。コーナーバンク角度は平均して10度しかありません。ターン1とターン2の半径は、ターン3とターン4よりも小さくきついターンになっています。ここでは他のオーバル同様にレースカーの挙動に対してドライバーが自信が持てるようにすることが重要です。デイビッドの好みに合わせてアグレッシブにターンに進入できるように準備する一方で、同時にスムーズにターンをきれいな曲線ラインで通過できるようにするのも重要です。そして、予選セットとレースセットではわずかな違いがあります。予選では一発の速さを狙ってハンドリングバランスがニュートラルステアでも問題ありませんが、決勝レースでは一発の速さは必要なく、タイヤや燃料が減ってくると徐々にオーバーステアに変わってくるので、一貫して50周近くを安定して走れるようにすることが重要です。WWTRはアイオワほどバンピーではないので、バンプ対策はさほど重要ではありません。ただし、ストレートが長くバンク角度が少なく荷重移動量が大きくなります。特にアウトサイドのタイヤはその影響を受けます。なので、その荷重移動をコントロールして安定した挙動になるようにダンパーをセッティングする必要があります。4つのタイヤに適切なタイミングで適切な荷重が乗るようにコントロールします。ダンパーセッティングは重要ですが、アイオワと比較すれば優先順位はそれほど高くはありません。

【空力とメカニカルグリップではどちらが大事ですか】
一概には言い切れず、妥協が必要になります。足回りの動きで得るメカニカルグリップとウイングが発生するダウンフォースによるグリップが互いに連携して作用するセットアップを持つ必要があります。WWTRの特殊な点は、ターン1とターン2での走行速度が、ターン3と4とは大きく差があることです。空力的には、それぞれのターンはエアロマップ上では異なるポイントに位置します。なので、その違いを考慮してバランスをとり、それぞれのターンのエントリー、エイペックス、出口とすべての位置で最良の状態になるような適切なバランスを見つける努力をします。

【WWTRのセッティングでトリッキーな部分は?】
どのレーストラックででも同じなのですが、WWTRのようなオーバルでは、いかなる部分でもわずかな調整の結果で大きな変化が生じることがあります。シミュレーション上で、これらすべての要素をドライバーのフィードバックやトラックからのデータから再現させることは非常に難しいのです。ということは逆に言うと、シミュレーションで煮詰めた最終的なセットアップが、実車に施してみてドライバーが完全に同じ感覚を得られないということがあります。エンジニアは、他のどのレーストラックと同様に、ドライバーの求めるニーズを正しく理解する必要があります。幸いなことに、デイビッドはシリーズ内でも非常に若いですが、オーバルにおいてはかなりのスペシャリストとして成長しています。そのため、私の仕事はかなり楽になってます。彼は車に必要な状態をすぐに把握できるので、短い練習セッションでも最大のパフォーマンスを引き出すために必要なセットアップに車を直接調整できます。また、レーススティント中のタイヤの摩耗に対する挙動変化にも、彼のニーズに合わせてセットアップを調整することができます。
ターンでの各フェーズで、ドライバーの要求通りに車が動くようにすることは、常に難しい課題です。ターン1とターン2のコーナーリングスピードが、ターン3とターン4よりも時速20マイルも遅いので、ターン1-2へ進入する際に十分な安定性が確保できて、少々攻めすぎても、ターンインのタイミングが遅れても、予選時には速度を失わないで済むようにできます。同時に、外側のタイヤにしっかりと荷重をかけ、バランスを維持したままでエイペックスを通過し、コーナーの出口外側へ向けて美しいアーチを描けるようにします。これは非常に重要で、エッグシェイプのレイアウトが少々トリッキーですが、他のどのオーバルと同じことが、ゲートウェイでも重要になります。

【予選用セットと決勝用セットでは大きな違いはありますか?】
予選では、2周のタイム計測だけにレースカーを最適化させる必要があります。予選では2周だけのペースに焦点を当て、速度低下を極力防ぐようにタイヤから最大のパフォーマンスを引き出すことに専念します。しかし、決勝レース用にレーススティント全体で最適化させることは全く別の仕事です。決勝レースではペースを少し下げてでも、50周もの周回全体でのペースの維持を考える必要があります。そのためにはドライバーとのコミュニケーションを通じてレースカーをアジャストしていくなかで、素直に直線的な反応をするレースカーにすることが重要です。こうすることで、デイビッドはレース中にハンドリングバランスの変化を先読みしながら一貫したアジャストを続けることができ、ロングスティントを安定して走行することができます。コクピット内で前後のアンチロールバーの固さを調節したり、ウェイトジャッカーをアジャストすることで、4つのタイヤがバランスよく摩耗していくように、グリップが偏らないようにアジャストします。

【WWTRを攻めるためにはどうしますか?】
ペースを維持しながらタイヤにやさしい走りができるかどうかがすべてです。どのショートオーバルでもその2つが非常に重要です。昨年のレースでは、デイビッドと共に、スティントが進行するにつれてツールの使い方とその効果を理解し、ドライビングをアジャストさせて最後に向けてタイヤをセーブする方法を一緒に学ぶことができました。今年はその去年の情報とデータを持っており、デイビッドに指示を与えることもできますし、彼がそれをもっとうまくアジャストするためのヒントとアイディアを示すことができます。私たちはスティント終盤の重要なタイミングへ向けてタイヤのコンディションをいい状況にアジャストしていけると思います。ポジションアップのためには積極的に動かなければなりませんが、右前輪をうまくいたわってアンダーステアがひどくならないないようにしなければなりません。
そして何より、相手に仕掛ける時に自信を持って一気に仕掛けることが重要です。なぜなら、オーバーテイクを仕掛けながらてこずった場合、タイヤに多くの負担を与え続けることにつながり、後の数周に影響を及ぼすからです。なので、積極的な判断と行動が求められます。デイビッドは特にオーバルトラックにおいて私との共同作業の重要性をよく理解しています。今年は昨年の2位フィニッシュ以上の成果を出せるようにしていきたいです。

【今回はソフトタイヤが初めてオーバルで導入されますが?】
非常に面白い試みだと思います。レース戦略の観点から見ると、事態がかなり複雑なことになることでしょう。まずはチームが適格なツールと正しいプロセスを経て、最初のプラクティスセッションの後に分析し、その結果を確認することです。ほかのレースでもソフトタイヤについては同じように行っています。タイヤサプライヤーが発表する情報は非常に限られているのでタイヤの詳細なスペックに関しては不明ですが、考えられる範囲ではタイヤが少し柔らかい過去の複合材を使用した数年前のものにスペックが似ている可能性があるということです。
過去のタイヤに関しては、いくつかのデータがあり、それらの情報を基にタイヤの挙動を分析し、理解しようとすることはできます。しかし路面温度などの環境条件も大きく影響するので、正直なところ、走ってみない限りはわからないでしょう。私たちは何かしらの過去の情報を手掛かりにして、基本データをタイヤや路面状況、気温、風速などの違いに合わせて調整することができます。例えば、WWTRでは、アイオワと比較してギアチェンジが忙しくなるかもしれません。予選戦略もレースとは異なります。これらのすべての要素を確実に押さえておけば、その時点で最大限のグリップを得るための、あらゆるアジャストに活用することができます。今回のオーバルでのソフトタイヤの導入は非常に面白い試みですし、レースがさらに面白いものになることは間違いありません。まずは新たな状況にどのように対応していくのかが重要です。

【マルーカスはどのようなハンドリングバランスを好みますか?】
デイビッドはあきらかに、他のドライバーよりもオーバーステアに対応できるドライバーの一人だと思います。特に今年の彼はその件に関してはさらに進化している印象です。なので、スティント出だしで多少のアンダーステアであっても、そのままうまく乗りこなしていけるので、徐々にニュートラルステアからオーバーステアに変化していっても対応することができます。彼は経験を積んできた結果、クルマの挙動からどのようなアジャストが必要なのかをより正しく理解できるようになっていて、自分の仕事も楽になりました。彼はコーナーリング中のタイヤの微妙な荷重変化を感じとることを非常に得意としています。なのでアクセルワークで挙動をコントロールすることも非常にうまく行えます。その感覚と能力には素晴らしいものがあります。
デイビッドの能力とは別に、単に彼の好みがアンダーステアかオーバーステアかと言えば、デイビッドは比較的オーバーステア志向の車を好むと言えるでしょう。しかし、今年は状況によっては好みにかかわらず自分のドライビングスタイルをレースカーに適応させることができるようになっています。彼は好みに関係なくレースカーのバランスを受け入れて、状況に適応することができます。もちろん、毎回完璧なハンドリングバランスのレースカーを準備できるなら、それがベストですが、レースカーセッティングでは時にはレース距離に合わせたり、レーストラックの特性に合わせたり、特定のコーナーの癖に合わせたりした結果、他の部分で妥協をしなければならないことがあります。しかし、デイビッドはどのようなレースカーでも乗りこなす能力を持っていると思います。

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