ストリートコースのロングビーチでのセッティングの極意






市街地の一般道を使用するロングビーチGPは1周1.968マイル=3.17キロ。11のターンがあって、フロントストレッチとバックストレッチの2か所がパッシングポイントになります。

チップガナッシレーシングのパフォーマンスディレクターのクリス・シモンズは2015年のディクソンのロングビーチGP優勝時にエンジニアを担当していました。シモンズはかつてはレーシングドライバーでインディライツ参戦時代は服部尚貴選手のチームメイトでした。

そのシモンズにストリートコースでのセッティングの極意を聞きます。

【ロングビーチへ必要な準備は?】
1周の距離は長すぎず短すぎず、路面状況もこれまでのデトロイトほどバンピーではなく、セントピーターズバーグほどスムーズではありません。ロングビーチの特徴をあげるとしたら、他のストリートコースにはない長いストレートがあります。予選では最大のダウンフォース量か、ほぼ最大のダウンフォース量にします。決勝レースでは長いストレートに合わせた空力設定が重要でストレートエンドでの速度を稼ぐために、他のどのストリートサーキットよりも少しウイングを寝かせ目にすることがあります。

【セッティングで一番大事になる部分はどこですか】
ロングビーチには高速コーナーはなく中速コーナーばかりになります。なのでコーナーリングで空力に頼る部分はありません。空力(ダウンフォース)が影響するのはブレーキングで、中速や低速のコーナーでも空力的影響が発生します。あとはロングビーチでのセットアップに関して必要なのはメカニカルグリップです。メカニカルグリップとダウンフォースの両方を考慮すると、車高はできるだけ低くしたいのですが、ストレートと中高速コーナーの大きな速度差と路面のバンプの影響で車高をあまり低くすることはできません。そのためにサードダンパーやスプリングなどで工夫してセッティングを煮詰めていきます。あとは最終ターンのヘアピンの立ち上がりをいかに速くするかですね。ここの脱出速度が速度がターン1で前に出られるかの分かれ目になります。

【ロングビーチで最も難しいセクションはどこですか】
もっとも速度が落ちるヘアピンはロングストレートの入り口にもなるので、ここでの立ち上がりを重視することが重要になります。それ以外にもバックストレッチの入り口となるターン8や、その前のターン6は路面に傾斜があって非常に癖がある場所で両方ともかなりトリッキーです。そして、噴水セクション(ターン2と3)からターン5までは他のストリートサーキットにはない小刻みに向きを変えるターンが連続していて、ダンパーでの車の挙動のコントロールが大事になります。しかし、一番大事なのはヘアピンの立ち上がりをいかに速くするかです。

【決勝セットと予選セットで大きく違うところは】
ロングビーチのような長いストレートでも、パスすることは簡単ではありません。プッシュ・トゥ・パス(P2P)なしでのパッシングは本当に難しいです。P2Pの使用時間は最大200秒なので、前方のグリッドからスタートするほど有利になります。また、予選セットアップとレースセットアップではかなりの違いがあります。予選セットアップは数周の計測ラップでタイヤを使い切るくらい攻めたものになります。一方で決勝レース用のセットアップは燃料満タンの状態から20〜30周は連続走行することになります。なので、予選ではメカニカルグリップよりもダウンフォースを重視にしてがちがちの脚周りにします。決勝用セットアップはメカニカルグリップを重視する方向でタイヤの摩耗を抑えるように柔らかめの脚周りにします。その分、コーナーリング中のロールや加減速によるピッチング量は増えるので、ドライバーはレースカーをよりコントロールしなければならなくなりますが、タイヤの消耗は抑えることができます。

【ディクソンはロングビーチで何か秘策を持っていましたか】
ディクソンは非常に高い適応力があって、セットアップを少し外したとしても状況変化に合わせてレースカーを乗りこなす能力があります。しかし、ロングビーチでは決勝日の朝にウォームアップがあって、その時は気温が低いことが多いので、その条件下にレースカーを合わせすぎないようにする必要があります。午後にスタートするレースでは気温がかなり高くなり、風向も大きく変わります。スコットはレース前半を重視しますが、ダリオはレース終盤重視の傾向がありました。なので、ロングビーチでは朝の涼しいコンデションに合わせてしまうと、気温が上がる午後にはかなりレースカーの感触が変わってしまうので注意する必要があります。基本的には気温が上がるにつれて後輪の消耗が前輪の消耗よりも大きくなります。特にヘアピンから加速ではリアのグリップを失わないことが最も重要になります。

【週末を通じて路面状況はどう変化しますか】
今週末を通じてのグリップレベルの変化の把握は大きな課題になると思います。去年はコース1周にわたって路面表面の補修がおこなわれ、路面に雨対策のシール材が使われました。そのために、グリップレベルが過去数年にはないほどの高さになり、トラックエボリューション(タイヤラバーが乗ることによる路面状況の好転)は過去にない少ないものになりました。したがって、その路面のシール材がどれほど路面に残っていて、1年間でどれだけ劣化しているか、そして他に路面状況の変更があったかどうかによって、トラックエボリューションの大きさは大きく変わると思います。ロングビーチ路面のグリップレベルの特徴はサポートイベントのドリフト競技の関係でターン9、10、11では路面にソフトなタイヤコンパウンドがべったりと擦り付けられ、その部分のグリップレベルが極端に大きくなることです。ロングビーチ以外でIMSAスポーツカー選手権や、その他のサポートシリーズが走る時と比較してもグリップレベルの差は大きいです。この結果、シミュレーションでセットアップを再現することが非常に難しく、さまざまな課題を生じさせています。

【海岸沿いという立地はどんな影響を及ぼしますか】
アメリカ西海岸では、海からの冷たい風が地上に差し掛かると雲になり地上を覆います。夜間は雲が地上を覆うことで地面からの放射熱を遮断して気温を高めに保ちますが、逆に雲は朝日を遮るので路面温度の上昇を遅らせます。そのため、路面温度は午前中は低い状況になります。特に海岸に面するロングビーチは、その影響を大きく受けます。天気予報を基に様々なシミュレーションを行ってセッティングを施しますが、なかなか風が収まらいことがよくあります。しかも午前と午後で風向きが変わり、レースが始まってから風向きが途中で変わることもあって、ギア選択に大きく影響することがあります。ギア選択を外すとストレートエンドのトップスピードに影響します。その結果、ストレートエンドでのパッシングで大いに苦労することにつながります。

【ロングビーチでのグリーンタイヤの特性は】
ファイヤストンは全てのストリートコースで同じスペックのタイヤを持ってきますが、それぞれのコースでは路面状況が全て異なるため、タイヤの挙動もそれぞれのコースで異なり、癖が出てきますます。昨年はロングビーチでは路面補修にシール材が使われて、グリップレベルとタイヤの特性が大きく変化しました。昨年はセッション出だしからタイムが非常に速かったです。プラクティス1のラップタイムが、すでに前の年のレッドタイヤ(ソフトタイヤ)による予選タイムよりも速かったと思います。セッティングではメカニカルグリップとダウンフォースの妥協点の見極めが必要で、ドライバーの好みに合わせて、レースカーのパフォーマンスを最大化するためには、その妥協点をどうするかが大いに迷うところです。今年のソフトタイヤは昨年とは少し違うので、そこにも合わせ込んでいく必要があります。実際には予選前のセッションでソフトタイヤを試すことができるので、事前にハードタイヤとスフとタイヤのキャラクターの差をチェックすることができます。

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