変見自在?偏見自在➅ 保護者同伴じゃないとダメですか?


https://www.fiaformula2.com/Drivers/1207/Liam-Lawson




今年は日本最高峰のスーパーフォーミュラ選手権(SF)では新人外国人選手のリアム・ローソンが3勝も挙げて、あわやタイトル獲得かという状況だったが、シーズン2勝の宮田莉朋が獲得ポイントでローソンを上回って、日本人ドライバーの面目は保たれた。

次期F1ドライバーと目されるレッドブル育成のローソンは、「日本人ドライバーは今の地位を守ろうとしている」と発言して”界隈”は騒然となった。

そんなローソンも1年でSFを”卒業”し、F1への道がすでに開かれている。

実はローソンは2017年12月に、翌年のUSF2000へのフル参戦と奨学金20万ドルをかけたマツダ・ロード・トゥ・インディ・シュートアウトに参加したものの、奨学金はアイルランドのキース・ドゥネガンが獲得している。もし、ローソンが奨学金を得ていたらインディカードライバーになっていた可能性は低くはない。

2016年に国際自動車連盟(FIA)は、これまで雑然としていたF1参戦資格であるスーパーライセンス取得条件をクリアするためのポイント制度を大きく変更した。そのためのF1へのステップアップシステムを再構築し、これまでのGP3とGP2を廃止して、新たに開設したFIA F3からFIA 2へのステップアップ制度を構築。それまで各国で開催されていたF3の地位を大きく下げるという政策を取った。

これまで、佐藤琢磨が英国F3からマカオGPを制してF1へ駆け上がったり、それ以前には中嶋悟が全日本F2を制してF1へ参戦したり、さまざまな形で繋がっていたF1への階段は、これで事実上1本だけとなった。

日本最高峰と言われたSFもその先が完全に行き詰った。

一方で、F1にはあまり縁がなかったアメリカ国内で、2018年にF3選手権がスタートした。

アメリカではインディ500を頂点とするインディカーシリーズがあって、そのステップアップラダ―システムも3つのシリーズ全てに奨学金がついて、タイトルを獲得すれば、ほぼ手ぶらで階段を上がれる環境がすでに構築されていた。

そんな中で、アメリカでスタートしたF3にはホンダがエンジンサプライヤーとなった。インディへの階段はすでにマツダがサポートしていた。

ホンダは2016年にスタートしていたF4アメリカでもエンジンサプライヤーを務め、アメリカでの若手育成をサポートしていた。この日本ではほとんど全くなじみがないF4アメリカには2020年に野田樹潤が参戦する予定になっていたが、開幕3レースにエントリーはしたものの、結局参戦はなかった。

F4アメリカからF3アメリカへステップアップしていったドライバーにはインディカーシリーズで2勝を挙げているカイル・カークウッドや、2024シーズンに鳴り物入りでチップガナッシレーシングからインディカーデビューを果たすキフィン・シンプソンの名前もあった。

2020年にFIAは、これまで各国で行われたローカルF3選手権を格下げすることにより、F3アメリカはフォーミュラ・リージョナル・アメリカ(FRA)と名称が変更された。

頂点を制してもインディカーには進めず、F1への階段にも届かなくなったFRAは、その進路を日本のTOPカテゴリーのSFへ向けることを決定した。これにはエンジンサプライヤーのHPD(ホンダ・パフォーマンス・デベロップメント=現HRC-USA)が尽力し、FRAのチャンピオンはSFがフル参戦できるお膳立てをすることになった。

そのスカラーシップが始まった初年度の2021年はキフィン・シンプソンが獲得したが、日本政府の新型コロナ対策でシンプソンは入国ができないという状況になり、スカラーシップ制度はいかされなかった。

スカラーシップ制度スタ―ト2年目の2022年は、18戦中6回のポールポジションと11勝を記録した南アフリカ出身で26歳のラウル・ハイマンがチャンピオンとなって、SFへの挑戦が決まった。ハイルマンにとっては2018年のF3アジア選手権以来のタイトル獲得だった。2019年にフル参戦したFIA F3ではランキング22位だったことを考えれば、これは大きな飛躍であった。

そんなハイルマンも、2023年スーパーフォーミュラ選手権ではランキング25位と低迷。つづいて2023年のFRAチャンピオンになったカラム・ヘッジはSFへのスカラーシップを辞退しインディネクストへの参戦を選択。60万ドル(2023年12月現在の為替で約9千万円)を蹴り飛ばした。

ホンダによるFRAチャンピオンへのSF参戦スカラーシップは2023年で終了となり、結局はハイルマンだけが日本でレースを経験した。

ハイルマンの実力は見極めにくいが、2024年にチップガナッシに大抜擢されたシンプソンがもしSFを走っていたら、SFとインディカーシリーズの関係は面白いことになっていたかもしれない。

いずれにせよ、SFは再び海外とのコネクションを失ったかに見えた。

しかし、2023年シーズン終了後の12月に鈴鹿サーキットで実施されるルーキーテストに海外から6人の若手が参加することになった。

その中でも注目はF1アルファロメオのリザーブドライバーで2023年FIA F2でチャンピオンとなったテオ・プルシェール。もし、2024年からSFにフル参戦すれば今年のローソン同様にSFを大きくかき回す存在となることは間違いない。

そんな外国勢6人の内で、異色のドライバーが2人いる。カリフォルニア出身で19歳のノーラン・シーゲルと、スウェーデン出身で22歳のラスムス・リンドで、共に10代からアメリカで頂点を目指し、下のクラスからインディネクストまでステップアップしてきた。

もし、インディネクストからSFへの参戦が実現すれば、2017年のフェリックス・ローゼンクイスト以来となる。

かつてのピエール・ガスリーやアレックス・パロウ、2023年のローソンの活躍や、話題が影響なのか、SFが欧州や米国でトップを狙うドライバーたちの留学の場と化していることは興味深い。当然、今回のテストでの2024年シーズンへ向けてのシート争奪戦は激しくなるに違いない。

長年活動してきた地を離れて、わざわざ遠いアジアでのトップカテゴリーへ挑戦しようとするその意欲はぜひ応援したい。

一方で、ローソンに「今の地位を守ろうとしている」と言われた日本人ドライバーからは宮田莉朋がトヨタに背中を押されながら欧州に挑戦に向かうも、他に野心的な声は聞かない。

アレックス・パロウは26歳は若くないとしてF1参戦を断念した一方で、米国のインディカーシリーズではまだ40代のチャンピオン候補がうじゃうじゃいる。
そんな国からハタチ前後の若者が保護者に背中を押されることもなく日本へ挑戦しにやってくる。

日本からも米国へ渡る若者は出ないものだろうか…保護者の同伴や後押し無しで。

4件のコメント

  1. SFは全日本時代から、日本人以外も数多くのF1ドライバーを輩出してきたハイレベルなリーグで、何ならF2より速いのでは?と思う事すらあります。象徴的なのはアーバインのF1初優勝会見で「星野という鬼速いオヤジのせいでタイトルが取れなかった」と日本時代を振り返り、横にいたフレンツェンが頷いた場面。元の英文を知りたいです。
    でも、INDYとはかなり遠い存在だったのに、日本のカテゴリーを経験している日本人以外のINDYドライバーが過去に見ないほど多くて驚いています。
    更に驚いたのがINDY500を見に行った時に駐車場でバーバキューをしているスウェーデンの一段がSFの存在を知ってた事です。しかし、パロウやローゼンクウィストが走ってた事はしらないというのままた不思議。
    因みにこの方達に声をかける時、「2位おめでとう!」とはとてもいえず、自然と「I’m sorry about エリクソン」という言葉が出てしまう点、彼らの落ち込んだ表情といい、改めてINDY500の特殊さを実感しました。

    HPDもHRCになりましたし、ホンダネットワークでSFとINDYをより強固に結んで、SFとINDYをドライバーが行き来できるといいですね。

    > 日本からも米国へ渡る若者は出ないものだろうか…保護者の同伴や後押し無しで>
    これには激しく同意します。
    琢磨さん、いつまでたっても引退できない。
    1. いっくんへ
      まずは日本人選手は合同テストに見学に行って色々なチームに接触してほしいと思います。
      ロジャー安川という有能な代理人がいるのですから。
  2. 「見学に行って」まさにそれに尽きると思います。中野さんがCART時代に「自分がF1時代にまともに話を聞きに来たのは佐藤琢磨だけだった」と、その時から、日本人の海外意欲について語ってました。

    数年前に大湯選手でしたっけ?テキサスに見学に行ったのは。武藤さんが「来週後輩が行くので宜しくと」と仰ってましたね。いつもの解説陣も「まずは見学にいく重要性」を訴えてますよね。
    記憶正しければあの頃はS耐で中野さんと走ってた気がするので中野さんの影響もあったのかな?

    本当に。ロジャーさん凄いですよね!SFでラップリードできる人はINDYでも通用する筈です!だから日本人ドライバー、特にトムスや無限レベルの人たち!!オーバルへの不安はあるかも分かりませんが、ロジャーさんが面倒見てくれるならそれ以上に心強いって事を知って欲しいです!
    1. いっくんへ
      テキサスへ見学へ行ったのは大津選手と笹原選手です。

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