2008年4月、大学に入学した。感覚的にはついこの間のように感じていた大学生活の始まりが14年も前の事なのだと、文字にしてみてその年月の経過の早さに驚いた。大学での思い出にこれといったものは無い。3回生の時にアメリカへ留学へ行ったがそれ以外は平凡以下の学生時代だった。
大学に入学してすぐの頃は、自分もみんなのように楽しいキャンパスライフが送れると淡い期待に胸を躍らせていた。
「大学生=サークル」「キャンパスライフ=サークル」
大学に対してそんなバカみたいなイメージしか持ち合わせていなかった私はサークル選びがこの先4年間の大学生活を左右するのだと確信し、サークル選びだけは失敗してはならないと思っていた。
入学してすぐ、サークルの体験期間のような期間があり新入生はその期間で自分達の入りたいサークルを見つける。私は同じ大学に進学した高校の時代の友人Kとどのサークルに入ろうかと思案していた。そんな時、ひとつの興味深いサークルを見つけた。「オールラウンドサークル」という週替わりで色々なスポーツをみんなで楽しむ、まさに「サークル」という感じの内容のサークルだった。いざ体験で行ってみると、これまたこれぞサークルといった感じのゆるさで、これくらいのゆるい感じが自分達には合っていると思った私とKはそのサークルに入る事に決めた。
サークルに参加し出して何度目かのある日、キックベースを楽しんでいる我々の元にサークルの長のような人物がやってきて唐突に尋ねた。
「サークル費、払って無いですよね?」
長の言ってる事が理解できていなかった私とKはお互いに顔を見合わせ「はい!」と即答した。すると長は、
「サークル費払ってないのでもう来ないで下さい」
と言った。「もう来ないで下さい」この言葉の意味は流石に理解できた。その後の確かな記憶はほとんど無い。気づけば2人、帰りの電車に揺られていた。
後から分かった話では、サークルの体験期間はとっくに終わっていて、多くの新入生は正式にサークルにサークル費を払って参加していたらしい。そんな事とは露知らず、私とKはサークル費を払わずにサークルを楽しむ厄介者だったのだ。サークル費も払わない厄介者が楽しそうにキックベースを楽しんでいる事に流石に長も我慢の限界だったのだろう。
思い返せば、あの時オレらだけ全然パス回って来なかったなとか、オレらがゴール決めてもみんな全然盛り上がってなかったなとか、飲み会呼ばれた事ないなとか、我々がサークルの一員として周りから認められていない節は確かにあった。そんな事とは露知らずサークルを楽しむ2人の厄介者。兎にも角にも私達はサークルから追い出された。
サークルの体験期間が終わっていると分かり私は全てを諦めた。大学生=サークルという信念でキャンパスライフを謳歌しようとしていた私の夢は呆気なく終わりを告げ、見事に大学デビューに失敗した。そして、そこからはただただ卒業の単位を取るためだけの大学生活がスタートした。
ほんのついこの間、大学生活の始まりに心躍らせていた入学式の日の自分を思い返す。春の息吹を感じる暖かい陽だまりの中、新たな学生生活のスタートに期待と不安を募らせる自分。キャンパスライフという言葉に心躍る自分。新調した黒のスーツにダークグレーのネクタイという出で立ちで入学式に出席した自分。そんな自分を見てKが私に投げかけた言葉。色々な記憶が頭の中を駆け巡る。
私はサークル選びの失敗が大学デビューの失敗だとばかり思っていた。でも実際はそうではなかったのかもしれない。私の大学デビューは本当は入学式で終わっていたのかもしれない。
今でも春になるとたまにふと14年前のあの日、入学式でKが私に投げかけた言葉を思い出す。
「入学式やのに喪服かよ」