2023シーズンから採用されるハイブリッドシステム






RACERでマーシャル・プルーエット氏寄稿の記事から。



2023シーズンよりインディカーではICE(内燃機関)とERS(エネルギー回収システム)で構成されるハイブリッドパワーユニットが採用されることになっています。



ICEは現行の2.2リッターV6ツインターボから2.4リッターV6ツインターボへ排気量を拡大。ERSに関しては一社供給の同一スペックの物を使用するとして関係企業に幅広く参加を促していました。



そして、RACERは独自の情報収集の結果、ERSは運輸関係に幅広く製品や部品等を供給しドイツのシュツットガルトに本社を置くMAHLE(マーレ)が供給するということが判明。マーレはこれまでもレースの世界にはピストンなどのパーツを供給してきたほか、日本にも拠点を置いています。http://www.jp.mahle.com/ja/



レースの世界ではマーレの知名度は高くないものの、エンジンパーツ他、精密機器の製造を主とするサプライヤーで、電動パワートレインの製造などのe-モビリティの分野を得意とし、電動車両でのレースとなるドイツツーリングカー選手権(DTM)へ技術供与することで契約を結んでいます。



インディカーへ供給されるERSの詳細情報に関してはまだ公式発表は何もなく、現時点での情報は今後変更可能性もあるとRACERは前置きしたうえで、インディカーが採用予定のERSは広く使用されているフライホイールによる発電とバッテリーによる蓄電の組み合わせではなく、スーパーキャパシターもしくはバッテリー以外の蓄電装置を使用すること複数の情報筋から情報を入手したと報じています。



これまでに高性能なスーパーキャパシターの使用が使用された例として、2014-15シーズンにFIA世界耐久選手権でトヨタのTS040 LMP1 HYBRIDがデンソー、日清紡と共同開発した自家製システムを使用していましたが、現行のトヨタGR010 Hypercarではバッテリーによるエネルギー回生システムを使用しています。



バッテリーに代わってキャパシターを使うメリットとして充電時間の短縮があげられますが、インディカーがキャパシターにこだわる理由として、ERSによる100馬力のパワーアップを得るためにはブレーキング時にリアホイールから短時間で十分な電力を蓄える必要があるからだと考えられます。



と言うのもバッテリーによる蓄電システムではインディ500をはじめとしたオーバルトラックではハードブレーキングによる十分な充電量の蓄電が期待できないという理由があります。



オーバルトラックではF1で使用されているMGU-H(熱エネルギー回生)などの排気ガスで回転力を得るターボチャージャーの駆動力でエネルギー回生するシステムを使用するという選択肢があるものの、その可能性は低いとみられています。



現時点で収集された情報を元にすると、インディカーはマーレ社が供給するスーパーキャパシターを全てのレースで採用し、ロードストリートコースでは従来通りにブレーキング時にエネルギーが回生され、オーバルトラックでは同じくリアタイヤのブレーキング時にエネルギー回収されますが、その作動に関してはステアリングホイールに装着されたパドルレバーを指で操作することによってコントロールするという、インディカーではこれまでにないアイディアが盛り込まれています。



かつては似たようなシステムがシボレー・ボルトEVに搭載され、高速道路走行中に車間を維持するためにハンドル裏のレバーを操作することによってブレーキペダルを踏むことなく減速できるようになっていました。



また、LMP1ハイブリッド車にも似たようなパドルレバーの操作によるエネルギー回収システムが搭載されたほか、フォーミュラEでもブレーキングやコースティング(アクセルオフの空走)時にパドルを操作することによってエネルギーを回生させる装置があります。



このパドルシフトによるブレーキ操作はインディ500のレース中の集団走行でドラフティング効果が高い時に、全車との距離を維持するのに非常に有効であるとともに、200周のレース中に頻繁に行われるこの動作によって効率的なエネルギー回生効果が期待されます。



さらにスーパーキャパシターの急速充電特性は突然訪れるパッシングのチャンスに十分なパワーブーストをもたらすことも可能としています。



一方で、このエネルギ回生に関する規則がどうなるかということも関心の一つになっています。



ロードストリートレースでの減速時のエネルギー回生に関しては、フル充電まで制限なしに自動的に充電するシステムになるとしていますが、オーバルトラックでのスーパーキャパシターとパドル操作によるエネルギー回生では一気にフル充電にするのか、システムによる自動充電は容量の50~75%に抑えて、残りの容量はドライバーによる意図的な充電操作によって賄うようにするかなど、インディカーはマーレ社とさらに話を詰める必要がありそうです。



パドル操作によるエネルギー回生とパワーブーストに関して、何人かのドライバーは燃費走行やタイヤの使い方がドライバーの腕の見せ所となっているように、いかに有効にエネルギーを回生させるかと言う部分もドライバーの操作方法や使い方に依存させた方がいいと意見表明しています。



もう一つな重要なのが、マーレ社が供給するスーパーキャパシタとエネルギー回収システムの導入が、現行のダラーラDW12(IR-12)シャシーの継続使用にどのような影響を与えるのかという点です。



ハイブリッドシステム導入に向けての新型シャシー導入の計画はなく、各チームは現行のDW12シャシーを使用し続けることになりますが、この仕様変更に対するコストとして1台当たり25万~50万ドルが見込まれています。



費用面以外では発電機を兼ねるモーターとキャパシターからなるERSユニットはエンジン後方にトランスミッションやリアサスペンションマウント共に接続されるベルハウジング内に搭載されることになっていて、その重量は約54㎏となります。



現行のインディカーの重量はロードストリートでは1700ポンド(約771㎏)。これに全ドライバードライバーを185ポンド(約84㎏)にバラスト調整したうえで18ガロンのE85規格バイオエタノール燃料を搭載して2010ポンド(約912㎏)となっています。



これにERSユニットを加えると2130ポンド(約966㎏)にもなり、この数値はIMSAのDPiクラスのレースカーとほぼ同じで、インディカー100年の歴史で最も重いレースカーとなり、車体後部にユニットが搭載されることによって重心が1~1.5%移動すると考えられています。



しかしながら2020年に導入されたエアロスクリーンは60ポンド(約27㎏)で、ERSの搭載は結果的に2019年とほぼ同じ重心に戻るものと推定されいます。



問題として考えられるのはタイヤへの負担で、最大900馬力へのパワーアップは、より硬いコンパウンドにすることが必要と考えられ、コンパウンド変更によって大幅なグリップ力の低下で加速減速やコーナーリング性能の低下が予想されています。



重量増加に関しては現行のアルミニウム合金製のベルハウジングとXトラック製のトランスミッションケースをマグネシウム製に変更することで35ポンド(約18㎏)の減量が見込まれていますが、ベルハウジング内に搭載されるESRが発生する熱対策に関しては新たな工夫が必要とされています。



排気量アップに伴うラジエーターの大型化に加えて、ベルハウジングへのダクト、もしくは水冷システムの設置などが想定されています。



リアホイールにモーター制御が加わることに関して、現行のPFC製のブレーキシステムを油圧駆動からバイワイアシステムへの変更することも検討されましたが、リアにアクティブバイアスコントローラーを追加することで左右後輪のブレーキ圧力を均等にする措置が取られます。



また、重量増加に現行のブレーキ性能で対応できるは、バラストを搭載した車両をミッドオハイオに持ち込んでテストした結果、ブレーキ性能にはまだ十分な余力があることが確認されたものの、他のレーストラックでどのような結果が得られるかは、今後も各チームで共有すべき課題となっています。



インディカーは3月に実車でのテストを予定し、ICEとERSを組み合わせた状態でパワーユニットをテストするほか、新設計のチタニウム製ベルハウジングとトランスミッションケースの試作品も試されることになっています。



しかし、現在の全世界的な製品供給不足の影響でERSと新設計の軽量化された駆動系パーツは3月のテストに間に合うかどうか、難しい状況とのこと。さらにこの状況の中でシャシーを製造するダラーラはICEの排気量アップに伴い冷却能力を高めた熱交換システムの開発製造にも迫られていて、3月のICEのテストスケジュールもこれらの部品供給の見通しによって決められることになっています。



現行のダラーラIR-12のベルハウジング。2013年当時はホンダはベルハウジングにシングルターボを搭載。その後ツインターボ化でタービンは再度ポッド内に移動。このスペースにERSユニットが搭載されることに。

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