インディカーシリーズの安全性を裏から支えるセーフティーチーム



世界中の他のレースシリーズに先駆けて専属のセーフティーチームを組織して全レースに帯同させてきたインディカーですが、今シーズンからはそのセーフティーチームを全米最大の救急搬送オペレーション企業のAMRがサポートしています。

1月にはセーフティチーム全28人と9人の医師、6人の看護師がインディアナポリスモータースピードウェイに集まりました。そこでは2017シーズンを映像を見ながら活動を振り返り、そして、ユニバーサルエアロキットに関しての勉強会も行い、2018シーズンに向けて新たな準備を行っています。

通常のレースウィークエンドでは開催レーストラックに所属する地元のセーフティスタッフと毎朝ミーティングを行い、どのレーストラックにおいても、いかなるグループと連携しても、事故発生時には常に精度の高い連携のとれた救命活動とコースの清掃活動ができるように訓練と講習が行われています。

今シーズンはレースカーのエアロキットが新しいものに変更されたために、ドライバーの救出方法、火災発生時の対処方法、レッカー移動時の取り扱い方法などをAJフォイトレーシングのチームテスト時に実車を使っての訓練と講習を行っています。

サイドポッドの形状の変化は救出活動にどのような影響を及ぼすのか?腕はどこからどこまで届くのか?車体のどの部分は上に上がって立つことができるのか?レッカー車で釣り上げた時のバランスはどうなるのか?牽引する場合の作業に何か変化はあるのか?様々な部分が精査されます。

インディカーのトラックセーフティマネージャーのティム・バーグマンによれば、今回のエアロキットの変更によって救出活動はこれまでよりもやりやすいものになるとのこと。

新しいエンジンカバーはこれまでよりも低いものに変更されて、コクピット後部からの救出活動がやりやすくなります。ボディカウルにも開口部が増えて、カウル内の燃料漏れやオイル漏れによる火災の消火活動もしやすくなります。

インディアナポリス消防局の主任でもあるバーグマン氏は「市街地での火災は4分以内の現場着到を目標にしているが、レースでは2分以内に負傷者をケアセンターに搬送することを目標としている。」とコメント。

事故発生、セーフティチームの出動、コース上での後続車両に対しての安全確保とドライバー救出。救急車への収容。ケアセンターへの搬送。ここまでで2分です。

状況によってはレーストラック内のケアセンターには搬送せずに、直接病院へ搬送することもあり、場合によっては救急車ではなくヘリコプターを使用することもあります。

これらは、現場の救急救命士、看護師、消防士、外科医の連係によって迅速に判断されます。

通常のレースではセーフティチームは3台のシボレー・シルバラード1500と1台のホンダ・パイロットSUVに分乗してレーストラックのそれぞれの場所に分散して待機しています。事故発生時は20秒以内の救出活動開始を目標としています。

3台のトラックはそれぞれ微妙に仕様が異なりますが、消防士と救急救命士ら4人が乗り込み、救助のための医療機材、油圧資機材、消火剤、オイル処理剤、モニターカメラとデータ受信装置、ジェットドライヤー、清掃機材などを備えています。

それぞれのトラックはアクシデント発生時にはドライバー救出、事故発生個所のダメージの確認、コースの安全性の確認と後続車両の誘導と仕事を分担しています。そして、去年のインディ500終盤に起きたマルチカークラッシュ発生時にはどのような応援依頼をして、どのように手分けして作業をするのかなど細か想定がしてあります。レーストラック所属のセーフティースタッフと協力して最大6台までは対応ができるということです。

これらの連携作業のためにも日ごろの訓練と、これまでの活動の分析と解析は欠かせないと言います。多重クラッシュ発生時は火災の発生状況やそれぞれのドライバーの反応、ステアリングホイールを自ら外したり、ヘルメットバイザーを挙げたかなどの動作を見て救出の優先順位などを見極めて、無線で連絡を取り合って連携しているとのこと。

ホンダのSUVには専門外科医が乗り込み、放送受信設備や双方向データ通信装置などを備えて常にレース状況を監視しながら活動を行っています。

セーフティーチームのメンバーのほとんどは本職が消防士や救命士、医師であって、本業の空いた時間で活動しているにもかかわらず、事前の準備や講習などのセーフティチームでの活動に対する意識は非常に高く、チーム加入への志願者は後を絶たないと言います。

このようなセーフティチームの舞台裏での膨大な努力によってレースの安全性は保たれています。

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