ジョン・メルヴィン博士(長文の弔文)

トロント・レース2の放送のなかで、現地コメンタリーでは先週お亡くなりになった人物としてレポーターのかたや俳優のジェームズ・ガーナー氏とともに、17日木曜日に他界されたジョン・メルヴィン博士のことも触れられていたので、それを一言だけ日本語でも伝えました。でも、大きな功績を残された先生なので追加情報を書かせていただきます。

1986年にGMがイルモア・シボレーV8でインディ500に復帰する際、自社ブランドのついたマシンで死亡事故が起きるのを嫌い、参戦決定と同時にインディ500の安全向上のための研究も独自に始めました。その担当となったのが当時GMの安全研究スタッフだったジョン・メルヴィン博士でした。
メルヴィン博士は、インディ500でのクラッシュに関する映像、画像、レポート、医療データなどあらゆる資料を可能な限り収集しました。その膨大な資料を分析したメルヴィン博士は、人間はどの部分に、どの方向に、どれだけの衝撃(G)を受けたらどこまで耐えられるのか、あるいはどれだけの傷害を受けるのか、ということが科学的にわかるようになりました。

このメルヴィン博士のデータはその後さらに有効活用され、GMとIRL(現インディカー)とのADR(事故データ記録装置)、大型ヘッドレストなどのドライバーの安全向上に装置の開発と実現に活かされていきました。

さらにメルヴィン博士はGMから独立して安全技術コンサルタントとなり、インディ500以外の事故データも収集、記録、検証。そのデータと見識はインディカーのみならず、90年代以降のF1などFIAの安全研究、さらにはNASCAR、NHRAの安全向上にも活かされました。とくに、クラッシュテスト、衝撃吸収構造、HANS、ロールケージ、NASCARやラリーカーのヘッドレスト付き安全シート、SAFERバリアなどの研究開発と導入には、メルヴィン博士のデータや助言や協力が大いに役立ちました。

博士は、SAE(アメリカ自動車技術者学会)のMSEC(モータースポーツ技術者学会)の安全部会でも中心的なメンバーの一人で、IRLとCART(現在は統合されてインディカー)、FIA、NASCAR、NHRAとの安全技術でのつながりと交流を促進させたキーマンであり、世界中のモータースポーツの安全向上に多大な役割を果たしました。また、博士がまとめたクラッシュの衝撃と人間の生存にかんする研究データは、市販車でも各国のNCAP(衝突安全評価プログラム)の策定のもととなり、今日の私たちが乗る自動車の衝突安全向上実現の重要な基礎にもなりました。

「XXX(ドライバー名)のケースでは、事故の衝撃で頭が前方に投げ出された結果、頭蓋底が外側に折れたことで神経が断裂したのが死因だった」などと、トマトソースがたっぷりのイタリア料理やケチャップをいっぱいかけたポテトチップを食べているときに明るくはっきりした声で事故の事例をしゃべって隣のテーブルから苦情を出されたりとか、とにかく豪快な人でした。みんなを集めてぐいぐい引っ張っていく、いかにもアメリカンなリーダータイプで、仲間をとても大切にしてくれる人。僕たちにとって大切な師であり、素晴らしい友でありました。

多くの命を守ってくださり、ありがとうございました、メルヴィン先生。
MSEC2006
2006年SAE-MSECでの安全パネルディスカッションで
画面右から
スティーヴン・オルヴィー博士(元Champcarチーフ医療オフィサー)
テリー・トランメル博士(インディカー医療チーム)
●ジョン・メルヴィン博士
ヒューバート・グラムリング博士(FIA技官)
スティーヴ・ピーターソン氏(NASCAR・安全技術担当役員)
アンディ・メロー博士(FIA技官)
この撮影を仕切ってまとめてくれたのもメルヴィン博士でした。

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